住宅[373]

【分離発注とは】家づくりを失敗しないために知っておきたいこと

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執筆者:前田 浩貴

あなたは、分離発注の家づくりをご存じですか? 設計事務所が家づくりの方法として進めている事が多いです。 私たちの地元でも採用している設計事務所がいます。

分離発注の内容をしっかり理解して家づくりをするのであれば良いのですが、良い事しか伝えられないで採用してしまうと大きなトラブルにもなります。 今回は、分離発注の裏側についてお話をします。

まずは、表向きのお話です。 分離発注の一番のメリットは、「施主が直接職人に発注と支払いが出来るので 住宅会社の利益分安く家を建てる事が出来る。」と言われています。 家づくりに掛かるコストの透明化が図れる、あなたのこだわりを反映出来るのです。

そして、実際に職人さんが作業を進めている様子をみて、工事内容を肌身で感じる事でメンテナンスを考えて、永く安心して暮らせる家になるはずです。 とても良いシステムの様に感じてしまいますね。

では、本当のところはどうなのか・・・・? 裏側のお話をします。

住宅会社の利益分は安くなりません!! 住宅会社は、設計と施工が出来るので実際は工事管理の部分が安くなります。 分離発注は設計事務所の設計費は支払う必要があります。

その設計費は、見積もり金額の15%以上が相場のようです。住宅会社の粗利益が25%ぐらいですので、実際には工事金額の10%ぐらいが安くなるのです。誤解しないでください。しかし、これは10%安くなっているのではありません。10%分の仕事をしていないのです。それが工事管理になります。

設計事務所が行うのは、「工事監理」で「工事管理」ではありません。工事監理とは、設計図書通りにあなたの家が建築されているのかを監理します。工事管理とは、大きく分けて4つあります。

安全管理・品質管理・工程管理・原価管理です。どれも大切な管理になります。

お気づきになりました? 分離発注とは、この原価管理を透明化して安く家を建てようとしているシステムになります。

では、他の安全・品質・工程管理については、どうなるのでしょうか? 「設計事務所がやってくれるのでしょう?」 いや、やってくれません。管理してくれたとしても、しっかりとは出来ません。 いいところ、アシスタントが週に1回現場に行くぐらいです。管理しないから、その分が安くなっている訳です。

私は、建設業界に20年以上います。そして、今でも現場監督をしています。サラリーマン時代は、設計事務所の図面で工事(現場)管理をしてきました。私が出会った設計事務所の建築士で、工事管理が出来るまでのレベルで現場を知っている人は一人もいませんでした。設計事務所の所長(管理建築士)でも、現場の管理については私から言えば素人レベルです。

その業務の報酬を支払わない訳ですから、分離発注した場合はあなたが代わりに管理をしなければなりません。では、具体的にはどんな事(トラブル)が考えられるのかをお伝えします。

あなたは、1週間で何日、どのような時間帯にお仕事しているでしょうか?家づくりの職人さんは、8時~17時で、日曜日はお休みします。外の工事だと雨天は中止になります。

分離発注のメリットでもお伝えしましたが 実際に職人さんが作業を進めている様子を見る事で、工事内容を肌身で感じメンテナンスも考えて、永く安心して暮らせる家になると設計事務所は言います。

しかし、あなたが職人さんと同じ時間帯にお仕事をしているのなら、それは無理な事になります。お仕事を抜けてまで、現場に行って職人さんの仕事を観る事が出来る人は少ないでしょう。それに、分離発注ですからそれぞれの職人・業者は、自分の仕事だけをする事になります。ですから、取り合い部分では職人では分からない事が多いのです。

すると、どうなると思いますか?あなたに職人からしょっちゅう電話が掛ってきます。分離された工事の見積りの工事を時間のロス無く完成させなければ、工事完成後に追加請求をされます。設計事務所が設計した図面と現場のつじつまが合わないと、追加にもなります。

現場に行けば近所からのクレーム、職人の車の停め方が悪い、大きな車が入るのに連絡が無い、土埃で洗濯物が汚れた・・・。

家の中は、誰が出したのか分からないゴミがドンドン溜まっていきます。コンビニで買った弁当のゴミは、異臭を放ちます。 缶コーヒーの飲み残しにタバコの吸い殻が入っています。仮設便所は、トイレットペーパーや掃除道具がなく、汚れ放題で衛生的とは言えません。

ついには、お隣さんの塀に車をぶつけてしまい、職人に聞いても全員「俺は知らない。」と言う始末。 他の現場が忙しいと言って、予定の日に来ない事もしばしば・・・。職人同士がかち合うと工事がやれないとあなたに電話が掛ってきます。

もっともっと思いつきますが、これくらいにしておきます。私がお伝えした例は、建築の知識が無くても気を付ければ防ぐことが出来ます。でも、これらは見積もりの金額には表現されません。分離発注したために、見積書の明細に記載されていない事はやらなくても良い事になってしまいました。

現場の打合せや近所のクレーム対応や事故の始末を考えたら住宅会社にお願いした方が安くなるでしょう。そうならない様に、毎日現場に行きトラブルになる前に対応しています。もし、あなたがこれらの対応でお仕事を休む事が度々あったとしたら、 安くなっても意味がありませんよね。

前述で「管理」には4つある事をお伝えしましたね。 安全・品質・工程・原価管理でしたね。

現場の掃除が出来なかったり、駐車が悪かったりすると、事故になるかも知れません。ヘルメットを着用しないで作業をして怪我をしたら、大変な事になります。 これは安全管理です。

あなたは、基礎のコンクリートについて施工要領をご存じでしょうか?ただコンクリートを入れたらよいのではありません。どの様にコンクリートを打設するのかを管理しなければ、良い基礎にはなりません。これは、品質管理です。その他の工種も同様で色々な管理項目があります。

工事には順番があります。一度にたくさんの材料や職人を現場に入れてしまっては、仕事が出来ません。また、順番に仕事をしなければ雨漏れなどの欠陥になってしまう可能性がありますので、一つの工事が完了したら検査をして、次の工事に進むのです。

もし、その工事が天候や職人の体調不良などで送れてしまったらどうなるのでしょう。だからと言って、工期を長くとってしまっては今住んでいるアパートの家賃や時期によっては引越し代なども高額になります。これは、工程管理です。

今回の一番のコストカットポイントの原価管理 あなたは、職人にとっては一見さんです。つまり1回しか家を建ててくれない人であり、初めて家づくりをされる訳です。職人の立場になって考えてみましょう。

素人発注の単発の仕事をあなたなら請負いますか?私ならお断りさせていただきますね。現場にトラブルがある事予想され、素人が現場監督です。もし、請け負うとするならばそのリスク分の金額を上乗せします。市場価格が分からない施主が発注するから、上乗せしても分かりません。

そして、何かトラブルがあったら追加金額を請求したらいい訳です。

私がサラリーマン時代に現場監督の管理で一番最後に教えてもらった管理が原価管理です。他の3つの管理が出来てから、原価管理です。 経験と人脈と知識と会社のバックがあっても、とても難しく どれだけ神経をすり減らしていることか・・・。

今でも定期的に単価の見直しをして、全国の住宅会社と情報交換をして、建材屋やメーカーと交渉しています。 弊社のスタッフはこう言います。「一番やりたくないのが原価管理です。」 それぐらい難しい事を分離発注として、施主に責任を持たせているのです。

これらの事を理解して もし、素人で現場管理をやって「楽しかった」と本気で言っているのなら、かなりヤバイ人なのか、職人が優秀だったのでしょう。でも、素人が仕切る現場にまともな職人は集まりません。

もし、設計事務所がお金をとって管理もすると言ったら、それは分離発注ではなくなります。最大のメリットである「工事費が安くなる」は実現しません。

ちなみに、私たちは設計もしています。工事もしています。 監理と管理が出来ます。そして、職人は固定です。 寄せ集めの職人ではありません。現場のルールを知っていて、管理の重要性も理解しています。

自分の仕事以外も気にかけます。現場が汚れていたら掃除をします。 近所人とも仲良くなってしまいます。 定期的に仕事があるので、適正価格です。私が20年以上の現場監督経験から選んだ職人ですから間違いがありません。

色々と書きましたが、誤解の無いように最後にお伝えします。 分離発注システムでも良い家を手に入れている方もいらっしゃいます。

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