業務上の事故であれば必ず労災保険の対象となるわけではありません
会社に勤務している方が、仕事の中の事故により怪我などをした場合や、会社に出勤中又は帰宅途中に交通事故などに巻き込まれて負傷する場合があります。このような場合、労働者災害補償保険法から労災給付を受けることができます。
ただし、仕事中に怪我などをした場合に、必ず労災給付の対象となるかというと、必ずしもそうではありません。仕事中の事故や(病気の場合もあります。)が労災の対象となるためには、業務遂行性と業務起因性という2つの要件を満たしていなくてはなりません。
作業中の事故の業務遂行性について
まず、業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態で、事故を起こして負傷したとか、病気で倒れた、という事実があることです。作業中に発生した事故による怪我などの場合には、たいていの場合には労災給付が受けられます。
作業中に発生した事故による怪我で労災給付が受けられないのは、事故が労働者の逸脱行為(わるふざけ)による場合、天災地変による場合、労働者の私的行為による場合などです。
作業中以外の事故の業務遂行性について
作業中の事故による怪我の場合には、一部の例外を除いて、労災認定でもめることはありません。しかし、作業の中断中、作業の準備行為中又は後始末中、緊急業務中の事故による怪我などの場合には、個別に、労災認定の可否が判断されます。
例えば、作業の中断中に事故が起きた場合、その中断行為がトイレなどの生理的行為などの場合には労災認定がされます。一方、私的な理由で中断がなされていた場合には、労災認定はなされません。
作業準備行為中又は後始末中に事故が起きた場合には、その作業が事業主の命によるものか、又は、業務の遂行にとって必要不可欠な作業であるか否かに基いて、労災認定されるか否かが決まります。
緊急業務中の事故に関しては、事業主の命による場合は勿論のこと、事業主の命によらなくても、その際に起こった事故による怪我等については、たいていは労災認定がなされます。
業務起因性について
労災認定がなされるためには、もう一つ、業務起因性という要件を満たさなくてはなりません。この業務起因性とは、業務と傷病等との間に相当因果関係が存在することをいいます。
例えば、営業のため車で得意先を回っている際に交通事故で負傷した場合、又は、工作機械で作業中事故に巻き込まれて怪我をしてという場合には、業務起因性が問題になることは少ないです。労働者の方が明らかに悪ふざけをして起こした事故による負傷の場合を除き、たいていは業務起因性が認められます。
一方、病気の場合は多少複雑になります。例えば、アスベストに関する仕事をしていた方がじん肺になるような場合には、業務起因性が比較的認められやすいのですが、一般的な病気であれば、業務起因性があるかどうかが個別に判断されます。
例えば、仕事中に脳梗塞や心臓まひなどにより倒れたとしても、それが業務が原因であるとは必ずしも言えません。脳や心臓に持病があり、たまたま仕事中に倒れただけかもしれません。
なお、仕事中に脳梗塞や心臓病で倒れた場合には、その疾病が労災認定されるかどうかの基準が設けられております。それらは、発症の直前、発症の近接した時期、発症の6か月前、のそれぞれの時期に居樹な出来事がなかったかどうか、また、発症前6ヶ月間に異常な長時間労働はなかったか、などをもとに判断されます。
労災保険を受けるための要件
いずれにしても、仕事中に起こった事故による負傷や疾病により労災給付を受けるためには、その事故による負傷又は疾病が、業務遂行性と業務起因性の2つの要件を満たしていなくてはなりません。
この2つの要件を満たした場合には、業務災害又は業務上の疾病と認定され、労災保険から、負傷または疾病の治療に係る医療給付や、障害が残った場合の労災年金などの給付を受けることができます。
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2024/11/10 更新