大学受験は日程と費用の許す限り、いくらでも受験することができます。それだけ自由度の高い入試なので、逆に受験生は迷ってしまうことが多いようです。
「自分はどれくらいの大学を何校くらい受ければいいんだろう」と途方に暮れてしまうのは、高校生によくあるパターンです。
今回は、受験校を決める際に併願校をどのようにプランニングしていけばよいかについて、いくつかアドバイスをしていきたいと思います。
まず、大学受験では、チャレンジ校2校、実力相応校3校、安全校2校、を受験していくのが最も一般的です。
これは、高校入試の倍率が1~2倍であったのに対し、大学入試の場合は5~10倍が通常で、人気の高い大学・学部では20倍近くに達することから、現役で合格を勝ち取るためにはこのくらいの出願が最低でも必要となるためです。
ちなみに、チャレンジ校は自分の偏差値+5~10のライン、実力相応校が±0~+5ぐらい、安全校は-10前後、が目安になります。
特に女子の場合は、低倍率でしかも就職にも有利なことを考え、女子大や短大を安全校にするケースが多いようです。
併願の仕方に関しては、大きく2つのパターンに分かれます。
1つは、志望学部・学科が決まっている人で、同一学部・学科で色々な大学を併願していくパターンです(例えば、法政大学経済学部と日本大学経済学部など)。
もう1つは、志望大学が決まっている人で、同一大学内で受験する学部・学科を変えて学内で併願するパターンです(例えば、立教大学法学部と立教大学観光学部など)。
基本は学部・学科で選びつつ、気に入った大学に関しては、希望する学部以外の学部も併願するという、両者を併せたパターンも存在します。(例えば、早稲田大学法学部、早稲田大学商学部、明治大学法学部など)
特に気を付けてほしいのが「入学金の二重払いの回避」です。
大学受験にはとにかくお金がかかります。塾や予備校に行くのであればその費用はかなりのものですし、受験するだけでも私立であれば35000円前後、大学までの距離が遠い場合はホテルへの宿泊費、交通費が積み重なって、かなりの出費になります。
ですが、併願の仕方によっては、うまいプランを立てることが可能になります。
併願校については、試験日・発表日・手続締切日を見て最終的に決定していくことになりますが、その中でも特に大切なのは手続締切日です。安全校の手続締切日がチャレンジ校の発表日よりも後になるようにしなければなりません。そうしないと、安全校に一旦手続をする必要が生じ、およそ20~30万円の入学金を納めることになります。
その後、チャレンジ校に合格しても、一度安全校に支払った入学金は返還されないのです。
ですから、行きたい、行きたくないという感情も大事ですが、実際は長く手続を待ってくれる大学が安全校としては最適になります。
悪い例
安全校
試験日2月3日 発表日2月10日 手続締切日2月16日
実力相応校
試験日2月5日 発表日2月17日 手続締切日2月22日
チャレンジ校
試験日2月9日 発表日2月23日 手続締切日2月29日
(入学金90万円)
良い例
安全校
試験日2月3日 発表日2月10日 手続締切日2月22日
実力相応校
試験日2月5日 発表日2月15日 手続締切日2月24日
チャレンジ校
試験日2月9日 発表日2月21日 手続締切日2月28日
(入学金30万円)
大学受験の併願プランを考える際には、「受験する大学のレベルとその順番」も考慮しなければなりません。
ここで覚えておいてほしいのは「安全校⇒実力相応校⇒チャレンジ校の順で受験!!」という鉄則です。難易度が徐々に上がっていく方が、実力を発揮し易くなります。
「最初の受験校がチャレンジ校」である場合と「最初の受験校が練習試合」である場合では、受験者にかかるプレッシャーはどちらが重いでしょうか?
また、入試日程がある程度進んだ段階で、「チャレンジ校受験時に1つも合格校が無い」状態と「チャレンジ校受験時には既に合格校がある」状態では、はたしてどちらが実力を発揮できるでしょうか?
さらに、「もう後が無い」人と「順調に合格を出している」人では、はたしてどちらが次の受験で上手くいくでしょうか?
例年、特に上位生に、ホップ・ステップを軽視し、「受かってもいかないところは受けても無駄だから安全校を受験しない」と言う人がいます。しかし、上位校を受験する人ほど安全校を受ける必要があるのです。
それは、現役生がチャレンジ校にしているような上位校は、浪人生の占める割合が非常に高いからです。彼らは現役の時から通算で多くの受験を経験して試験に臨んできます。しかも、一浪している場合、さらなる浪人は許されないため、安全校から順を追ってしっかりと受験してきます。
ですから、上位校を受験する場合、浪人生と同じ土俵の上に立つためにも安全校からしっかりとステップアップしていく必要があるのです。
スポーツ選手同様、いきなり本番で実力を発揮できる人は少なく、その意味で予選や練習試合は大事なステップになります。特に現役生は、試験中であっても、入試を通じてさらに実力をつけることができるので、最後まで諦めないという気持ちが大切です。
さて、受験校を決定する際には、上記のような「基本的な内容」に加えて、守ってほしい7つの項目があります。それをここでは紹介していきましょう。
その1. 倍率は過去3ヵ年分を見よ
受験生として一番気になるのはやはり「倍率」でしょう。しかし、実質倍率は前年だけを参考にすると、隔年現象に気づかず思いがけず高倍率になり、足元をすくわれる危険性があります。
「お?去年は倍率が低いみたいだぞ?これなら受かるかもしれない。受験しよう!」と考える受験生が多くなるため、倍率が低い年の後は倍率が高くなります。このように隔年現象とは1年おきに高倍率と低倍率を繰り返す現象のことを言います。
次年度に高倍率が予測される大学・学部は回避するのも作戦の一つです。とはいえ、必ずしもそのようになる保証はないので、「自分がその大学をどれくらい受験したい気持ちがあるか」という部分も検討材料にいれましょう。
その2. 傾斜配点に注意せよ
同じ学部・学科でも大学ごとに科目の配点バランスが異なります。それを自分の得意・不得意に合わせて受験 校を決める参考にすることもできます。
例えば、
東京理科大学理学部物理学科 :英語100点、数学100点、理科100点
立教大学理学部物理学科 :英語100点、数学100点、理科150点
学習院大学理学部物理学科 :英語150点、数学150点、理科150点
もし、この中でどれか1つだけ受験するという場合、理科が得意で英語・数学がそこまで得意でない生徒であれば、間違いなく理科の配分が高くなっている立教大学を受けるのが有利ですよね。
また、同じ大学であっても学部・学科によって配点が異なる場合があります。
例えば、
立教大学経営学部 :英語150点、国語100点、地歴100点
立教大学経済学部 :英語150点、国語150点、地歴100点
立教大学法学部 :英語200点、国語200点、地歴100点
自分の得意科目の配点が高い大学・学部・学科ほど受かりやすいことは言うまでもありません。さらに同じ大学・学部であっても、方式によって配点が異なる大学もあります。
例えば、
専修大学国際経済学科A方式 :英語100点、国語100点、地歴100点
専修大学国際経済学科C方式 :英語150点、国語100点、地歴100点
その3. 校舎の場所の変更に注意せよ
校舎の場所が変更になった場合、受験者が増加し、倍率が上がる可能性があります。さまざまな大学で見られる実際の例ですが、首都圏以外にキャンパスがある大学・学部が、首都圏内にキャンパスを移転することを発表した年などは、ほぼ間違いなく倍率が上がります。
帝京科学大学や北里大学海洋生命科学科などがその例と言えるでしょう。とはいえ、キャンパスの移転というのは、そうそう起こることではないので、あまり気にし過ぎない方が良いでしょう。
その4. 解答欄の形式に注意せよ
記述式か選択(マークシート)式かでも、得意・不得意を考慮した方が良いでしょう。これは非常に大きなポイントですね。
記述問題だけでなく、論述問題などを出題する大学もどのレベルでもありますから、そういう部分に直前まで気づかずに、本番になってから対策不足を露呈する、というケースが多くありますので、赤本などで過去に出題されている問題形式を把握しておくようにしましょう。
例えば、明治学院大学などは、ここ数年で急に英語の要約問題が出題されたり、学習院大学文学部では日本史と世界史でかなり長めの国立大学並みの論述問題が出題されます。
その5. 最適な入試方法を選択せよ
各大学で入試システムも多様化しているので、自分の志望する大学の試験方式についても詳細にチェックする必要があります。
例えば、
東洋大学経営学部A方式 :英語100点、国語100点、地歴100点。定員200名
⇒3教科の合計で判定。300点満点
東洋大学経営学部C方式 :英語100点、国語100点、地歴100点。定員30名
⇒上位2教科の成績を利用して判定。実質200点満点
東洋大学経営学部D方式 :英語100点、国語100点、地歴100点。定員30名
⇒高得点の1教科の得点を2倍にして判定。実質400点満点
すべての日程を受験することもできます。ただし、2月後半の日程の場合、倍率が跳ね上がります。 また、全学部入試は倍率が若干高い傾向にあります。
その6. 科目の出題範囲に注意せよ
特に国語・数学については、大学・学部・学科によってその出題範囲が大きく異なります。
国語・・・「現文のみ」「現文・古文」「現文・古文・漢文」の3パターン。
例えば、
早稲田大学政治経済学部 :現代文と古文と漢文
明治大学政治経済学部 :現代文と古文
法政大学経済学部 :現代文のみ。
(「漢文の独立出題をしない」とある場合、現代文・古文の中で、漢文の出題アリ!!)
(現代文に関して、「国語表現」(ことわざの意味等)の出題が増えている!!(特にMARCH))
数学・・・「数学Ⅰ」「ⅠA」「ⅠⅡ」「ⅠAⅡ」「ⅠAⅡB」「ⅠAⅡBⅢ」「ⅠAⅡBⅢ」の7パターンがあるので、注意が必要です。
例えば、
東海大学生命化学科 :ⅠAⅡBⅢ
東京農業大学生物応用化学科 :ⅠAⅡB
麻布大学動物応用科学科 :ⅠAⅡ
日本大学応用生物科学科 :ⅠAⅡB
関東学院大学物質生命科学科 :ⅠAⅡB
東京理科大学応用生物科学科 :ⅠAⅡBⅢ
その7. 試験日の連続に注意せよ
体力的・精神的な理由から、男子は3日連続、女子は2日連続までに留めた方が賢明でしょう。
イメージはわきやすいと思いますが、模擬試験を受けるために地元の大学に4日連続で足を運ぶだけでも、かなりぐったりしてしま いますよね?それが遠く離れた大学受験のキャンパスとなると、模擬試験の比ではないですよね?
センター前出願が基本!! ただし、難易度が高いので、過度の期待は厳禁!! 私大のセンター利用に関しては、出願の仕方で大きく2つに分けることができます。
1つはセンター試験当日までに出願をすませる大学で、 もう1つはセンター試験後に自己採点を経て、その後出願をする大学です。
主要大学の多くは前者ですが、安易にセンター利用入試に出願するのは避けましょう。それは、特に文系の場合、センター試験での必要得点率が意外に高いからです。
以下の表を見ていただければわかると思うのですが、一般的にはそこまで偏差値の高くない亜細亜大学などでも、センター利用入試で受験した場合、67%の得点率を取ることが最低ラインとなります。この67%というのは地方の国立大学であれば、軽く二次出願できる程の得点率というものです。
このように、センター使用はかなり合格への壁が高いので、センター利用方式では不合格だったが一般入試では合格したという受験生は、 (センター後出願は、予定に組み込まないのが基本。あくまでも、緊急用として捉えてください。
大学 | 学部 | 学科 | 偏差値 | 教科-科目 | センター (ボーダー) |
センター (倍率) |
センター (定員) |
一般入試 (定員) |
明治 | 法 | 法律 | 60.0 | 3-3 | 87.7% | 8.4 | 80 | 640 |
法政 | 法 | 法律 | 60.0 | 3-3 | 87.6% | 6.8 | 45 | 196 |
成蹊 | 法 | 法律 | 57.5 | 3-3 | 83.0% | 4.9 | 36 | 104 |
明治学院 | 法 | 法律 | 57.5 | 3-3 | 82.6% | 3.2 | 25 | 180 |
駒澤 | 法 | 法律 | 50.0 | 3-3 | 77.6% | 4.4 | 30 | 300 |
専修 | 法 | 法律 | 50.0 | 3-3 | 76.7% | 4.1 | 30 | 132 |
東洋 | 法 | 法律 | 50.0 | 3-3 | 75.8% | 7.1 | 15 | 190 |
獨協 | 法 | 法律 | 50.0 | 3-3 | 75.0% | 3.2 | 50 | 65 |
亜細亜 | 法 | 法律 | 42.5 | 3-3 | 67.0% | 4.0 | 60 | 128 |
拓殖 | 政経 | 法律政治 | 40.0 | 3-3 | 66.7% | 4.8 | 15 | 65 |
国士舘 | 法 | 法律 | 40.0 | 3-3 | 58.4% | 3.1 | 20 | 60 |
要するに、センター利用入試で合格する力を持った生徒は、一般入試でも合格します。
しかし、一般入試で合格する生徒でも、センター利用方式では不合格となるということです。
理由としては、一般入試の定員が数十名~数百名なのに対し、センター利用方式の定員が若干名~数十名に留まっていることが挙げられます。センター試験では、緊張から思った以上に点が取れないことが往々にしてあります。
受験料のことを考えると無駄にセンター利用入試に出願するより、一般入試を1校でも増やした方が得策です。
出願するにしてもせいぜい2校までに留めるか、2校出願する場合でも必ずレベルの異なる大学を選ぶのが賢明です。
一方、理工系の場合、(上位大学を除いて)ボーダーラインが低く、受かりやすい傾向があります。日本大・東洋大・東京電機大は出願するメリットも大きいです。
また理系においては、現代文を必修科目としていたり、英語との選択になっていたりする大学も多いので、センター試験で国語(現代文)を受験すると、選択の幅がかなり広がります。(以下の表を参照)
大学 | 学部 | 学科 | 偏差値 | 教科-科目 | センター (ボーダー) |
センター (倍率) |
センター (定員) |
一般定員 |
東京理科 | 工 | 機械工 | 60.0 | 4-5 | 88.8% | 4.8 | 10 | 54 |
芝浦工業 | 工 | 機械工 | 50.0 | 4-5 | 75.8% | 2.8 | 20 | 60 |
法政 | 工 | 機械工 | 50.0 | 4-5 | 76.0% | 3.1 | 15 | 59 |
東京都市 | 工 | 機械工 | 54.0 | 3-4 | 77.5% | 3.2 | 13 | 46 |
日本 | 理工 | 機械工 | 47.5 | 2-3 | 75.0% | 3.4 | 32 | 38 |
日本 | 生産工 | 機械工 | 40.0 | 3-4 | 60.0% | 2.6 | 12 | 40 |
東洋 | 工 | 機械工 | 37.5 | 3-4 | 52.5% | 2.3 | 25 | 40 |
東京電機 | 工 | 機械工 | 50.0 | 4-5 | 63.0% | 4.1 | 20 | 65 |
①まずは私立大学の中での第一志望大学を決定する。
②入学手続き締切日が第一志望大学の合格発表日よりも「後」の大学を併願の候補として調べる。
この際、「ここを受けよう」ではなく、日程などが一覧になっている資料を使って「機械的に」調べて候補を書きだして(もしくはマーカーチェック)いきましょう。この時点である程度限られるはずです。
③インターネットサイトを2つ活用します。それは「パスナビ(旺文社)」と「グーグルマップ」です。まずはパスナビで大学名を調べ、その大学の所在地をおさえましょう。
それが調べられたら、グーグルマップの「ルート・乗り換え案内」を使って、自宅の最寄り駅から、その大学までのルートを調べます。(ホテルを取る場合は別ですが)この際、「乗り換えの回数」には特に注意してください。たとえ「1時間半」で到着できるとしても、その間に乗り換えが5回もあったら行くだけで一苦労となりますね。
④次に科目のチェックです。(ここは国立大学を受ける人は見てください)特に注意してほしいのが「科目のばらつき」です。
例えば国立理系の場合、大半の大学はセンター試験で理科を2つ使用します。そして国立大学の二次試験や私立大学では理科は1つしか使用しないことがほとんどです(一部上位大学を除いて)。
しかし、大学によっては受けられない科目というものがあります。
例えば「生命科学」を学びたい学生がいたとしましょう。その生徒はセンター試験では生物と化学を使い、二次試験および私立大学では生物を使うことに決めています。
しかし、候補の1つに挙げた「青山学院大学理工学部」に関しては、理科は物理か化学でしか受験することができません。
つまり、この受験生は青山学院大学だけは化学を使わなければいけません。
そうなるとせっかくセンター試験だけで化学が終わると思ったのに、青山学院大学のためだけに化学の勉強をセンター後も継続しなければなりません。しかし、それはかなりの非効率といえます。
それであれば、青山学院大学を受けずに、他の生命科学が学べる大学を受けるべきと言えるでしょう。このように、「ここを受けよう」という気持ちだけでは受験は非効率的なものとなってしまうのです。そういう部分も含めて併願プランが立てられれば、もうあとは受験に向けて突っ走るのみですね。
<協力:栄光ゼミナール高等部ナビオ>