受験生にとってはこれからやってくる夏はとても重要な時期と言えますね。しかし、夏休みで時間があるからといって、毎日毎日不規則な生活リズムや食事をしていていいということはありません。
むしろ受験生だって体が資本ですから、健康的な体があってはじめてしっかりとした受験勉強が可能になるのです。しかし、プロでもない限り、食事にまで気が回らないことも事実です。そこで、今日は夏に実践したい食事法を伝授します。
受験生の本業は勉強ですから、食事にまでいちいち気をまわしてなんかいられない。気をつけるのだとしたら、直前の2か月くらいからで十分ではないか。そんな風に思っている人も多くいるのではないでしょうか?
しかし、受験で最高のパフォーマンスを残すためには、長いスパンをかけてしっかりと体つくりをしていかなければなりません。ですから、この時期から体の中で最高の状態を整えてくれる食事を実践していきましょう。これは実際にアスリートも実践している考え方なのです。
一般には「ピーキング」と呼ばれるもので、一番実力を発揮させたい時に照準を合わせて、そこをピークとなるようにリズムを合わせるやり方なのです。受験まではまだまだ先ですが、今から体つくりを意識して、2~3月に最高のコンディションを築いていきたいですね。
よく即効性を求める人がいますね。「目がすぐよくなるもの」「1週間で痩せるもの」などと自分に都合の良いものばかりを求めようとしますが、どのような効果であれ、そんなに即効性のあるものというのは世の中には存在しません。
ですから、テレビなどで「○○が効く」と言われているからといって、そればかりを摂取してもほとんど意味がないのです。重要なのはバランス良くさまざまな食材を取り入れることなのです。そうすることによって体力や集中力が持続して、質の高い学習につなげることができるのです。
ちなみにバランスの取れた食事というのは、主食・主菜・副菜がそろった食事のことを指します。この3種類のものをバランス良く、朝昼晩で取り入れることで、受験勉強に必要な脳や体の健康維持につながるのです。
しかしそれらのバランスが崩れてしまい、栄養に偏りが出てしまうと、脳や体に必要な栄養が効率的に摂取されず、体にうまく力が入らなかったり、勉強に身が入らないような精神状態になってしまうのです。そうなってしまっては、勉強の効率としては最悪で、結果も良いものとはなりません。
★主食:お米やパンなど、炭水化物とエネルギーの供給源となるもののことを指します。
★主菜:タンパク質や脂質などを多く含んだ食事で、肉・魚・大豆・卵が主な食材となります。
★副菜:ビタミンや食物繊維、ミネラルを摂り入れるための食事で、野菜・きのこ・海藻類などがあります。
さて、上記では、「どういったものを摂取すれば良いか」にフォーカスしましたが、もちろんそれだけで終わりではありません。やはり食事はその内容と同じくらい、規則正しく取るということが重要になってきます。
規則ただしく、決まった時間に摂ることで、食生活のサイクルにリズムができ、体内時計が正常な状態になるのです。そうなると、睡眠そして目覚めが良くなり、朝食によって脳や体にスイッチが入って、午前の早い時間から、高い集中力で効率の良い学習ができるようになるのです。
それとは対照的にこのリズムが崩れてきて、さらには食事のバランスまで悪くなってしまうと、以下のような負のスパイラルを招くことになります。
食事のリズムやバランスの崩れ→体のだるさ・集中力の低下→勉強の効率の低下→学習進度の遅れ→遅れを取り戻そうと無理をする→さらに乱れる、といった感じです。
上述してきた内容は、あくまで理想的な食事法です。学校がある普段の日は規則正しく食事をとることができるかもしれませんが、学校のない夏休みなどは、それが難しくなってきます。また休みの時期などはご飯をしっかり食べずに昼食がパン1つだけ、といったことも出てきます。
そこで、なるべく理想的な状態に持っていくためのアドバイスをしておきましょう。
外で勉強していて、食事を取るとなると、パンやおにぎりなどで済ませたくなる時がありますが、そこにサラダなどを一品加えると良いでしょう。ほんの時々、というレベルであれば良いのですが、その食事が続いてしまうと、栄養が偏り、学習にも悪影響が出てきてしまいます。
ですから、主食だけにせず、野菜ジュースやヨーグルトを加えるといった工夫をしてみましょう。なるべく異なる食材を多めに取り入れることもぜひ実践してください。家からある程度の持ち出しをすれば、経済的にもなりますしね。
また、食事は満足感や喜びを感じる機会でもあります。受験勉強はただでさえ、途中で心が折れそうになりますから、辛い勉強をしている中では、食事から満足感を得ることも重要です。1日の中でそういった楽しい時間がなければ、勉強を続けるモチベーションも保てません。
ですから、気持ちを切り替えるためにも、満足感を得られるバリエーション豊かな食事にしてみてください。
さて、次からは具体的(専門的)な栄養素についてのアドバイスをしていきましょう。
①
炭水化物+ビタミンB1は脳に必要なエネルギーを供給し、脳・神経の働きを正常に保ってくれます。炭水化物は、消化・吸収される糖質と、消化・吸収されない食物繊維とに大きく分けられます。
糖質は体内で消化・吸収され、酵素の働きによってブドウ糖に分解されます。ブドウ糖は血液によって、体内の各組織に運ばれて、そのエネルギー源として利用されます。脳のエネルギーになるのはブドウ糖です。しかも、脳の重さは体重の2%ほどしかないのに、エネルギー消費量は、基礎代謝量の約20%なのです。
脳を動かすには、大量のブドウ糖が必要になります。ですので、ダイエットなどで炭水化物の摂取を減らしては、脳に十分なエネルギーが届かず、脳の働きが鈍くなってしまうのです。
糖質は酵素によってブドウ糖に分解されますが、その酵素の働きをビタミンB1が助けます。糖質の代謝の際に、疲労物質の処理も行われます。そのため、ビタミンB1が不足すると、糖質をエネルギーに変えることができず、また、疲労物質の処理ができず、疲れやすくなります。
★炭水化物を含む主な食材:お米・麺類・パン・バナナなど ★ビタミンB1を含む主な食材:豚肉・うなぎ・玄米・豆類・焼き海苔など
②
多価不飽和脂肪酸は脳の主成分である脂質の一種で脳の機能に効果があります。脂質の中でも多価不飽和脂肪酸と呼ばれるものは、脳に重要な働きをしていると考えられています。代表的なものに、ドコサヘキサエン酸(DHA)があります。
粉ミルクに、このDHAが添付されているものがよくあります。これは、DHAを含んだ母乳で育てた子の方が、DHAを含まない粉ミルクで育てられた子よりも、学習や記憶の能力が高いという研究結果があるためです。
また、DHAは、アルツハイマー型認知症を予防・改善するという報告もあります。脳の乾燥重量の約50%は脂質でできています。そのため脂肪酸は脳の機能において重要な役割を果たしていると考えられます。
★DHAを含む主な食材:ごま油・大豆油・ひまわり油などの植物油・いわし・さんま・さばなどの青魚など
③
トリプトファンは脳の疲労回復に必要な眠りを促してくれるのです。1日勉強して疲れた脳は、睡眠によって休めないといけません。その睡眠を促してくれるのがトリプトファンという成分です。
トリプトファンは体内で作ることができないので、食事を通して摂取しないといけません。トリプトファンは脳に運ばれると、セロトニンに生成されます。セロトニンは精神を安定させる効果、寝つきをよくする効果があります。
さらにセロトニンは脳内でメラトニンに変換され、これも睡眠に関係があるとされています。勉強を長時間してしまうと、目が冴えて、寝付けないことがあります。睡眠時間が少なくなったり、眠りが浅くなってしまうと、脳にたまった疲れも抜けきれなくなってしまいます。
そうすると、翌朝の勉強が効率の悪いものになってしまいます。朝から集中して勉強するには、睡眠が重要です。その睡眠に関わるのがトリプトファンなのです。
★トリプトファンを含む主な食材:牛乳・バナナ・大豆・アーモンド・レバーなど
疲れがたまって、集中力が持続しない。そんなときに、エナジードリンクを飲んで集中力を回復させたいと考える人も多いのではないでしょうか。
エナジードリンクに表示されている栄養素は、その働きを期待できるものです。一時的な効果はあります。ここぞという時にもうひと頑張りする際には、利用してよいとは思います。ただし、それに頼りすぎるのは、あまり良いこととは言えません。
疲労感や集中力は、普段の食生活から十分改善でいるものだからです。一時的な効果に頼るよりも、長期的に体力や集中力が持続する体を食生活から作った方が、結果として受験勉強にはプラスになります。
疲れがひどい場合は、エネルギー不足の可能性もあります。食事のバランスと、食事を取る時間を見直して、たまには適度な運動をしてみましょう。あとは、十分な休養です。定期的な小休憩と十分な睡眠を意識的に取ること。質の高い学習を長く続けるには、日々の食生活がやはり大事なのです。
さて、これまでは主に「学習に関係する栄養素」についてのお話しをしてきましたが、ここからは「体力維持に関係する栄養素」を紹介していきたいと思います。
①
タンパク質+ビタミンB6は体の組織の材料となり、頑強な体作りに欠かせない栄養素です。タンパク質は、体のあらゆる組織を構成する材料となる栄養素です。骨や筋肉、皮膚、毛髪、内臓などは、タンパク質が元となって形成されています。
体内の代謝や機能を調節する酵素やホルモンも、タンパク質で出来ているので、タンパク質は健康をキープするためには必要不可欠なのです。また、学習に関係してくる神経伝達物質もタンパク質で出来ています。
タンパク質は体に摂り入れるとアミノ酸に分解されますが、そのアミノ酸は一度組織の中に蓄えられます。そして、組織を作る際に、そこからアミノ酸を取り出して、体に必要なたんぱく質を合成するのです。ビタミンB6は、そうしたタンパク質の分解と合成の過程で必要な酵素の働きを助けてくれます。
「プロテイン」などで多量のたんぱく質を摂り入れるアスリートなどは、同時にビタミンB6も十分に摂ることが要求されてきます。タンパク質が不足すると、体の組織や神経伝達物質を十分に作れなくなることから、体力や思考力の低下など、体全体の機能低下につながってしまうのです。
★タンパク質を含む主な食材:肉類・納豆・卵・チーズ・マグロの赤身・うなぎなど
★ビタミンB6を含む主な食材:マグロ(赤身・トロ)・カツオなどの魚類・レバーにんにく・ピスタチオなど
長時間の勉強の後の休憩が、その後の計算力のテストにどのように影響するのかを実験した人がいます。
休憩中、白湯を飲んだAグループ、コーヒーを飲んだBグループ、砂糖を入れたコーヒーを飲んだCグループ、チョコレートとコーヒーをを口にしたDグループ。
どのグループがそのあとの計算力テストで結果が良かったと思いますか?
ちなみに被験者の学力差による結果を排除するために、学力がほぼ同等の被験者で実験しています。結果は、いずれのグループも休憩する前の計算力より、休憩後の計算力がアップしたのです。
これは、軽く何かを口にしながら休憩することが気分転換になって、思考力が回復すること、学習中でも適度な水分補給が必要なことがわかります。この結果だけを見ると、コーヒーを飲んだからといって頭が冴えるというわけではなさそうですね。
②
カルシウムの吸収率の低さはビタミンDがサポートしてくれます。カルシウムは骨や歯を形成するミネラル。体内のカルシウムの約99%は骨と歯にあるとされています。丈夫な体を作るうえでは欠かせませんよね。ただしカルシウムは吸収率が低い栄養素なのです。食事によって摂り入れた分が、そのまま吸収されるわけではないのです。
その吸収率は、性別や年齢によって異なりますが、受験生の年齢であれば30%といったところです。この吸収率を高めるには、ビタミンDが効果的なのです。ビタミンDは、カルシウムの吸収に必要なたんぱく質の合成を促し、小腸からのカルシウムの吸収を高めてくれます。
また、カルシウムは血液や筋肉にも一定濃度を保って存在し、体の機能を調整します。ビタミンDはその濃度を保つ働きもしています。しかしビタミンDは過剰に摂取すると血中のカルシウム濃度が上がり過ぎて、全身の倦怠感や食欲不振、嘔吐などを誘発してしまいますので、サプリメントなどでの摂りすぎには注意しましょう。
★カルシウムを含む主な食材:牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品・干しエビ・シシャモ・豆腐・小松菜など
★ビタミンD:アンコウの肝・丸干しイワシ・ちりめんじゃこ・きくらげ・干ししいたけなど
③
三大栄養素+ビタミンB群は食べたものを体の組織とエネルギーに変えてくれます。三大栄養素とは、タンパク質・脂質・炭水化物のことです。体の主要な構成物質で、エネルギー源です。
体を維持して、活動していくには、これらの栄養をバランス良く摂ることが必要となります。
そのバランスの基準になるものに、それぞれの英語の頭文字をとったPFC比率があります。これは、それらから摂り入れるエネルギーの合計を100として、タンパク質(P)からのエネルギーを15、脂質(F)からのエネルギーを25、炭水化物(C)からのエネルギーを60にすると良いとされています。
先に説明した主食・主菜・副菜のバランスの良い食事を摂っていれば、この割合に近いものになります。逆に、食事がパンだけになってしまったり、ダイエットなどで炭水化物を抜いたりしてしまうと、この適正比率(タンパク質15:脂質25:炭水化物60)が崩れてしまうことになります。
ビタミンBに類するものは数種類あり、それぞれ異なった働きをして、三大栄養素の代謝やエネルギー生成を補助してくれます。
さて、ここまでかなり長めの記事として書いてきましたが、少しでも参考にしていただけたでしょうか?
勉強を継続してやり、成果を出すためには、参考書だけが頼りなのではないんですね。何事に対しても体は資本ですから、しっかり体力と脳力を磨いて、来るべき受験に備えましょう!