“漢字は難しい”と考えてしまうのは「書く」ことと「読む」ことを一緒にするからです。「蜜柑」「林檎」「怪獣」「救急車」などの具体的な概念を表す漢字は幼児にはとても理解しやすいです。
また、子どもにひらがなをばらばらで与えるということは、アラビア文字を見せられていることと同じです。意味のない記号の集合体を見せられている状態です。それでも、脳に障害がない限り、私たち大人より記憶する能力の高い子どもはひらがなも覚えてしまいます。
私は長年、障害児の指導にも携わっていますが、以前一人のダウン症の子どもを指導していました。6歳から24歳になるまで関わりました。
「蜜柑」「葡萄」「卵」「餃子」「牛乳」などの食べ物、「象」「猫」などの動物「冷蔵庫」「風呂」などの家の中にある言葉を漢字で教えると驚くほどよく覚えました。しかし、漢字は何百字と記憶しているのに対して、意味のない記号のひらがなは覚えることができませんでした。
学習は易しいものから難しいものへ段階を踏んで進めなくてはなりません。このように障害がある子どもを相手に指導すると何が易しくて、何が難しいのかが、手に取るようによくわかります。
“障害児教育が教育の基本である”と言われる所以です。健常児は漢字もひらがなも同じようによく覚えるので、どちらが易しく、どちらが難しいのか大人には正しく把握できないのです。
では、文章を読む場合はどうでしょう。英語で書かれた本を読む時、アルファベット一文字一文字を知っていても、「icecream」「apple」など言葉として単語が頭に入っていなければ、本に書かれた内容を声に出すことも理解することもできません。
ところが、“ひらがな”という文字は、文字と音とが1文字1音という1対1で対応しているため、どんなに難しい内容のものでも、ひらがなで書かれてさえいれば、音を拾って声に出して読むことはできます。