会社に勤務している労働者の方が、お仕事中に起こった事故により負傷した場合、又は、仕事が原因と思われる病気を発症した場合で、それらの疾病又は負傷が労災と認定されれば、労働者災害補償保険法の規定に基づき、保険給付を受けることができます。
この労災保険からの保険給付には、療養補償給付、休業補償給付、傷害補償給付、傷病補償年金、遺族補償給付などがあります。以下では、こられの給付について説明をしていきます。
療養補償給付とは、簡単に言えば、労災によるもの認定された病気や怪我の治療を受けた場合、その治療にかかる費用の全額が保険者(政府)から支給されるというものです。
一般的には、労災による病気や怪我の治療は、労災指定病院で行います。労災と認定されていれば、無料で治療等を受けることができます。なお、事故等が発生した場所のそばに労災指定病院がないなどの特別の理由がある場合には、一般の病院で治療等を受け、その経費の全額を保険者が現金で給付します。
なお、労災保険給付の対象となるのは、被保険者に対する、診察、薬剤又は治療材料の支給、処置、手術その他の治療、自宅等における療養上の管理や世話や看護、病院などへの入院及びそれに伴う世話や看護、病院への交通費、などのうち保険者である政府が認めるものです。
休業補償給付とは、労災認定された病気や怪我の治療のために、会社を休んだ場合、その休んだ日1日につき、平均賃金の60%の給付を休業中の所得保障として行うというものであります。
なお、平均賃金とは、簡単に言えば、事故発生日以前3ヵ月に支払われた賃金総額を事故等発生日以前3か月間の総日数で割った金額です。
例えば、3月31日に労災事故が発生した場合、この事故により怪我をして治療のために休業する労働者の方の、1月、2月、3月の賃金額が、それぞれ300,000円だったとします。また、1月~3月までの暦数を90日とします。そうすると、平均賃金は、900,000円÷90日=10,000円となります。
この方が、労災による怪我の治療のために会社を休んだ場合には、休んだ日1日につき平均賃金の60%、すなわち、6,000円が労災保険から休業補償給付として支給されます。
障害補償給付とは、労災による病気や怪我により治療を続けている労働者の方の状態が、それ以上に治療の効果が望まない状態(治癒)となり、かつ、労働者災害補償保険法が定める一定の障害等級に該当する場合には、その方に年金又は一時金を支給するというものです。
なお、労働者災害補償保険法施行規則(以下、規則という。)で定める障害の状態とは、重い方から1級から14級まであります。1級から7級に該当した場合には障害補償年金が支給されます。一方、8級から14級に該当する場合には傷害補償一時金が支給されます。
障害補償年金は、1級が給付基礎日額の313日分、2級が277日分、以下7級131日分と定められております。年金ですから、障害の状態が続く限り、毎年この金額が支給されます。
一方、障害補償一時金は、8級が給付基礎日額の503日分、9級が391日分、14級が56日分と定められています。一時金ですから、一度支払われたら、その後の支払はありません。
おおまかにいうと、給付基礎日数は平均賃金とほぼ等しいですから、上記の方の例で言いますと、障害等級の1級に該当する場合には、313×10,000円で、3,130,000円が年金で支給されます。
傷病補償年金とは、労災による怪我又は病気のために、その傷病に係る療養の開始後1年6ヵ月を経過しても、怪我又は病気が治らず、かつ、規則で定める傷病の状態にある者に対して、支給される年金のことです。
休業補償給付は療養の開始から1年6ヵ月を経過しますと打ち切られます。その後においても、一定の傷病の状態にある者に対しては、この年金が支払われます。なお、傷病補償年金を受けるためには、傷病の状態が規則で定める1級から3級に該当する必要があります。
傷病等級の1級とは、神経系統の機能または精神に著しい障害を有し、常に介護を要する者等が該当します。年金の金額は、給付基礎日額(ほぼ平均賃金と同じ)の1級が313日分、2級が277日分、3級が245日分です。
遺族補償給付とは、労災による事故又は疾病により死亡した労働者に、一定の遺族がいる場合に、その遺族に対して支払われます。遺族補償給付の対象となる遺族は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、のうち、亡くなった労働者によって生計を維持されていた者です。
遺族補償給付の対象となる遺族には、死亡した労働者によって生計を維持されていたこと以外にも、60歳以上だとか55歳以上だとか、高校生未満だとか一定の障害の状態にあるだとか、一定の要件を満たす必要があります。
さて、遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります。遺族補償年金の場合には、遺族補償給付の対象となる遺族の人数に応じて、給付基礎日額の何日分と定められています。
例えば、遺族補償給付の対象となる遺族が1人の場合には、遺族補償年金は給付基礎日額の153日分、2人の場合には201日分、3人の場合には223日分などとなっています。
一方、遺族補償一時金は、遺族補償年金の対象者がいない場合に支給されます。遺族補償年金は、一定の年齢制限や生計維持要件を満たしていないと支給されません。ですから、遺族が年齢要件を満たさなかったり、生計維持されている遺族がいなかった場合には、遺族補償年金は支給されません。
このような場合には、傷害補償年金の受給要件を満たさない遺族に対して、遺族補償一時金が支給されます。この遺族補償一時金の金額は、原則として給付基礎日額の1,000日分です。
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