保険[73]

雇用保険の特定受給資格者について

2,441VIEWS

執筆者:澤渡 正樹

雇用保険の被保険者である労働者が、退職した場合には、事業主から離職票が交付されます。この離職票には離職理由が記載されております。この離職理由によってハローワークから受けることができる求職者給付金の受給期間が変わってきます。

例えば、30歳未満の方が正社員として10年間会社に勤務して退職した場合、通常の離職理由であれば、基本手当の求職者給付金の受給日数は90日です。しかし、特定受給資格者に該当すれば120日間、給付金をうけることができます。
 
また、45歳以上65歳未満の方が、正社員として20年間会社に勤められて、退職した場合、普通の退職であれば給付金を受けることができる日数は150日ですが、特定受給資格者に該当すれば330日間求職者給付を受けることができます。
 
雇用保険を受けることができる期間は、再就職への準備期間ですから、この期間が長ければ長いほど退職した労働者にとって有利な優遇された給付となります。
 
ところで、特定受給資格者とは、簡単に言うと、会社都合による解雇や倒産など、再就職するための時間的余裕なく離職を余儀なくされた場合に、該当することになる雇用保険の求職者給付の受給資格です。
 
この特定受給資格者に該当する具体的な例を上げると、以下の通りです。

①事業の倒産による離職の場合

②会社が賃金を支払わない(引き続き賃金の3分の1以上が支払われなかった月が2か月以上)ことにより労働者の側から離職した場合

③賃金の額が85%未満に低下したことにより労働者の側から離職した場合

④離職日前6か月のいずれかの月に残業時間が100時間を超えた、又は、同じくその6か月間に平均45時間を超える月が連続して3か月あった、同じくその6か月間に平均で80時間を超える月が連続して2月あった、ことを理由に労働者の側から離職した場合

⑤有期労働契約を更新して3年以上勤務を継続した場合において、契約の更新がされなかった場合

⑥普通解雇(会社都合による解雇)された場合
 
以上のような理由で会社を離職した場合、雇用保険の特定受給資格者に該当し、通常よりも長い期間、基本手当を受けることができます。

また、通常の雇用保険の受給資格は、退職日から2年間遡った算定対象期間のうち、被保険者期間が12か月以上なければ発生しません。しかし、特定受給資格者の場合には、離職日以前1年間のうち、6か月以上の被保険者期間があれば、受給資格を取得できます。受給資格の点でも、特定受給資格者は優遇されています。
 
ただし、ここで注意すべき点があります。それは、会社が、離職する労働者が上記の特定受給資格者に該当する理由で離職したにもかかわらず、それを正直に離職証明書(したがって離職票)に記入しない場合があります。
 
例えば、過度の長時間労働により労働者が会社を退職した場合に、離職証明書の離職理由にそのことを記載すると、会社が労働者に長時間労働を強いていた事実が明らかとなります。また、普通解雇者を出すと、会社は雇用関係の助成金をハローワークから受け取れなくなる場合があります。
 
こういった場合には、会社側が真実のことを離職証明書(離職票)に記入すると、後から、会社の法令違反が明らかとなって行政機関から指導を受けたり、雇用関係の助成金の支給が打ち切られたりするので、それが嫌で虚偽の離職理由を書いてくる場合があります。
 
会社が離職票の離職理由欄に事実と異なる理由を記載してきた場合には、離職票の欄には会社や記載してきた離職理由に対する異議の有無を記入する欄がありますから、異議がある場合にはその旨を記載して、ハローワークへ申告します。
 
ハローワークでは、離職者の申し出を受けて、離職理由に対する離職者と会社の双方の主張を調査して、どちらの主張が正しいかを判断し、最終的な離職理由を決めます。
 
離職理由によって雇用保険の受給条件が異なることについて知っておかないと、会社側が記載した虚偽の離職理由をそのまま承認してしまい、雇用保険の給付の受給上で不利益をこうむることがあります。十分に注意しましょう。

関連記事

保険総合ランキング2024/11/21 更新

門衛PC版へ 
ページのトップへ戻る