日本は昔から子どもにやさしい文化をもっている国と言われていました。モースという十九世紀末に日本を訪れた博物学者は、
「日本人は確かに児童問題を解決している。日本の子どもほど行儀がよくて親切な子どもはいない。また日本人の母親ほど、辛抱強く愛情に富み、子どもに尽くす母親はいない」
と日記に書いています。
現代も「子どもにやさしい特徴は続いている」といってもよいでしょう。しかし一点だけ違っていることがあります。それは近隣の子どもたちを含めてではなく、「我が子についてのみ甘く、必要以上に子どもに尽くす母親である」ということです。
家庭では数少ない我が子について、幼いときから過剰な配慮が向けられるようになっていて、子どもを雁字搦め(がんじからめ)にしてしまいます。これが自立を阻んでいるのです。
どちらも自立することができないと、可愛さ余って憎さ百倍、家庭内暴力、引きこもり、親子殺し、という悲惨な事件にもなってしまいます。そうならないようにできないでしょうか。すんなり自立、親子離れしたいですね。
子どもの主体性や自立性が尊重されるべきことは、当然のことでこれに対して反対する人はいないでしょう。かといって、子どもがすぐに自立できるはずはなく、大人の関わりは必要にして不可欠です。
重要なことは、何について、どのくらい、どのような、関わりが適切であるかを見定めることが大事ですね。大人ほど「もっともっと」「がんばれ負けるな」というハングリー精神が大切であることを説く人が多いのです。しかし人間の安心感や、心地良さは、基本的な欲求が充足されてはじめて「自立」と「礼節」を得るものです。