6月24日の国民投票で、英国は予想外のEU離脱を決定、世界の金融市場は大きく動揺し、なかでも開票時間帯と重なった日経平均の下げ幅(1286円)は、リーマン・ショック時を超え、2000年以来の大きさを記録しました。
しかし、政治システムショックとも言うべき英国のEU離脱は、リーマン・ショックのような信用リスクの発生から金融危機に至る性質のものではなく、短期的には各国中央銀行が不足する通貨に十分な資金供給を行えば、為替や株への投機的な動きにも歯止めがかかるでしょう。
中期的には、EUとの離脱交渉プロセスが焦点ですが、EUに加盟せず経済連携するノルウェー、スイス、カナダのモデルケースがあるため、交渉難航に伴う不透明な状況は長期化しないと考えます。
英国のEU離脱決定以降、市場関係者やメディア報道の多くは、EUとの交渉難航、反EU勢力の拡大によるEU弱体化など、憶測に過ぎない悲観シナリオのオンパレードであり、その先には米国の利上げ先送りで円高・ドル安、日本株安という更なる悲観シナリオを描いています。
しかし、足元の金融市場は早くも落ち着きを取り戻しており、震源地の英国株(FTSE100)は24日以降の2日間で5.7%下落しましたが、29日には早くも離脱前の株価水準を上回りました。
NYダウは29日現在、下落幅の6割水準まで回復し、日経平均も24日に1286円(7.9%)安と急落したものの、その後の3日連続高で下げ幅の約半分を取り戻しました。
こうした状況は、リーマン・ショックのような信用リスクの発生から金融危機に至る性質のものではないことに加え、足元の金融市場の混乱に対し、各国中央銀行がドル資金の流動性確保など万全の体制をとる姿勢を示したことで、市場に安心感を与えたものと思われます。
中期的には、EUとの離脱交渉プロセスが焦点ですが、EUに加盟せず経済連携協定を結んでいるノルウェー、スイス、カナダなどのモデルケースがあるため、EUからの離脱は2年超かかるとしても、交渉難航で不透明な状況が長期化するとの見方は当たらないと考えます。
離脱交渉が始まれば、市場関係者やメディアに蔓延している悲観シナリオは悪材料出尽しと修正が図られる結果、金融市場は英国のEU離脱不安をいつまでも引きずらないと考えます。
ただ、英国自体は、ポンド安によるインフレ、英国債の格付引き下げによる資金調達コストの上昇などから増税や歳出削減、ロンドンの金融センターとしての地位低下などに伴う経済の衰退は避けられず、世界の投資家たちは一層英国の動向に注意を払わなくなるでしょう。
一方、英国の状況を目の当りにしたEU諸国に離脱のドミノ傾向が広がる懸念は薄らいでいるほか、英国に拠点を持つ企業や金融機関は、パリやフランクフルト、英語圏のダブリンなどに拠点を移すことで、EU経済にはポジティブと判断されます。
日本の為替影響については、仮に上記のことが見込めればユーロ高円安要因となるほか、ポンドと円は本来連動していないため、円高要因とはならないでしょう。
ドル円については、英国のEU離脱で米国の利上げ時期が先送りとなり、1ドル90円台が定着するとの市場関係者の見方が増えていますが、EU離脱による米国経済への悪影響を過大評価している感があります。
円安に向かうかどうかは米国の景気に対するFRBの判断が占めるウエイトは高いものの、米国は利上げ、日本は金融緩和の方向性に変わりないほか、何よりも最近の円高が投機的なウエイトがかなり高いことから、今後の追加緩和期待を背景に1ドル105~110円の円安に転換する可能性は十分にあると思います。