日銀が、1月29日に初のマイナス金利の導入を決定してから約1カ月半が経過しましたが、マイナス金利の効果と副作用を巡る賛否が、連日のようにメディアを賑わせています。
マイナス金利導入で先行する欧州でも、こうした議論は続いており、欧州中央銀行のドラギ総裁は、マイナス金利政策への批判派に対し、「彼らは副作用やリスクを警告するが、何もしないことのリスクについて語るのを聞いたことがない」との反論を突き付けましたが、私も正論だと思いますし、日銀も同様の考えではないでしょうか。
一方、我々国民の視点からは、マイナス金利の特性を理解したうえで、「能動的に行動しないとマイナス金利のメリットは得られない」ことを自覚する必要がある一方で、「マイナス金利」という言葉を誤解して、タンス預金のために金庫を買う行動は慎んだ方が良いと思います。
日銀の本音は、民間企業のぬるま湯体質に活を入れること
マイナス金利政策の2つの大きな目的は、下記の通りです。
(1)日銀が巨額のマネタリーベースを供給し続ける中、イールドカーブ(利回り曲線)に作用して、短期から超長期に至る実質金利をさらに押し下げること
(2)金融機関の貸し出し増加やリスク資産運用の積極化、民間企業に対しては増え続ける余剰資金の有効活用を促すこと
(1)については、欧州より副作用を抑えた政策を実行する中で効果を発揮してきています。
一方、(2)においては、これまでの政府や日銀の側面支援に安住して一向にリスクを取ろうとしない民間企業のぬるま湯体質に、日銀が活を入れた感が強く、2月以降は余剰資金を活用した自社株買いが急増し、企業のROE向上と株式相場の下支えに繋がってきています。
多くの批判派が指摘する銀行の収益悪化懸念は、銀行が何も対策を講じないことを前提としており、大きな環境の変化に対応しないことはあり得ず、改善余地は十分にあると言えます。
黒田日銀総裁は、3月7日の講演でマイナス金利政策について下記のように述べています。
・個人や企業全体としてみればプラスの効果が大きい
・資金調達がより低利で容易になり、早いタイミングで投資にもプラスに作用する
・金利低下の進展は、株高・円安方向に力を持っている
・金融機関の経営が圧迫されるとは全く考えらず、むしろ追加緩和を躊躇してデフレに逆戻りした方が金融機関には深刻な問題となる
マイナス金利の特性を理解すれば、投資対象カテゴリーは決まる
当面は、マイナス金利が実体経済にどのように浸透していくか、効果を見極める必要はありますが、マイナス金利の特性を理解すれば、資産運用面からの投資対象カテゴリーは決まってきます。
理論的に、マイナス金利で実質金利が下がれば、預貯金や債券などから株やREIT、海外債券に資金が移動しやすくなり、自国通貨は下落しやすくなる特性がありますが、2013年以降、日本の実質金利は米国を下回る状態が続いています。
また、マイナス金利政策で2年ほど先行する欧州では、市場金利の低下に伴う住宅ローンの拡大で住宅価格が上昇し、欧州よりも金利が高い米国などに資金が向かったことでユーロは1年で約5%も下落し、企業収益の改善から株価は約10%上昇したことは参考になります。
昨年以降の中国の景気減速懸念や原油安などが、景気や物価の勢いを鈍化させていることは世界共通であり、直近の円高や株安をマイナス金利のせいにする一部の論調を気にする必要はないと思います。
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2024/12/03 更新