[株式投資]ESG投資とROEの関係から個人投資家の長期的な資産形成を図る

ESG投資とROEの関係から個人投資家の長期的な資産形成を図る

2016/01/12

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ESG投資とは環境や社会、企業統治に対する企業の取り組み姿勢を投資判断材料とする手法と言われ、

E:環境(Environment)
S:社会(Social)
G:企業統治(Governance)

のそれぞれの頭文字をとっています。
 
ESG投資においては、企業への投資は、短期的ではなく長期的な収益向上の観点とともに、持続可能となるような国際社会づくりに貢献する視点で行うのが望ましいとされており、「利益」だけでなく、環境や社会との調和等を重視した「社会的責任投資」や「企業の持続的成長」といったサステナビリティといった視点が重要視されています。
 
しかし、日本では、SRI(社会的責任)投資が道義的観点から一定の投資対象を除外することで投資ユニバースを狭め、運用パフォーマンスにマイナスの影響を及ぼしたとのイメージを引きずっており、ESG投資に対しても、機関投資家(バイサイド)、個人投資家ともに運用パフォーマンス獲得のための投資の選択肢の一つとして採用するにはまだまだ二の足を踏んでいる状態です。
 
もし、ファンダメンタルズ分析を主流に投資を行う機関投資家(バイサイド)や個人投資家にとって、長期的にESG関連銘柄が持続的成長を達成することで、例えば、利益であるEPS(一株当たりの純利益)の伸びが高まると同時に、ESG関連銘柄に対してプレミアムが乗り、PER(株価収益率)が上昇することで、EPS、PER両面から理論株価(=EPS*PER)が押し上げられるというのが理想的な状態なのかもしれません。
 
しかし、我が国では依然としてESG投資への認知度・浸透度が低く、ESG関連銘柄にプレミアムが乗るにはまだまだ十分な時間が必要だと考えられます。
 
そうした現状を踏まえ、個人投資家が長期的な資産形成としてESG投資を有効に活用するために今後どのようなスタンスをとっていけばいいのでしょうか?
 
市場でESG投資が拡大していく過程において、その初期には、より利益成長の要素が含まれる「G」に注目し、ESG投資に対する認知度・浸透度が高まっていくのを待ちながら、パフォーマンスを享受していくのも一つの方法だと考えられます。
 
Gの企業統治(Governance)の例としては、資本効率への意識、不祥事への対応などが挙げられます。具体的には、社外取締役の独立性や情報開示体制などがしっかり整っているかなどが評価項目として挙げられますが、仮に後者の不祥事への対応を「守りのガバナンス」とするなら、前者の資本効率への意識は「攻めのガバナンス」と言えるでしょう。
 
「G」の要素の中で、攻めのガバナンスとして、利益成長・企業価値の向上に絡んで特に注目される指標としては、効率性指標であるROE(株主資本利益率)が挙げられると思います。

ESGの「G」の側面に加え、以下の理由から我が国ではROEへの関心がより高まってきています。
 
その一つの理由として「JPX日経インデックス400」の登場が挙げられます。JPX日経インデックス400は、2013年8月30日の時価総額を10000ポイントとして算出しており、東京証券取引所の第一部、第二部、マザーズ、JASDAQ上場銘柄の中からROE等を基に選定された400銘柄で構成される時価総額加重株価指数です。年金基金など機関投資家が従来のベンチマークとしていたTOPIX(東証株価指数)から、株主資本の効率性を高め、企業価値の向上を目指す企業へ投資する方向へシフトしてきているのも、よりROEの関心を高める要因となっています。
 
また、我が国ではスチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の行動原則)が制定され、機関投資家が建設的な対話と適切な議決権行使を通じて投資先の資本効率を高め、その持続的な成長に寄与することが求められています。2015年6月から独立した社外取締役の活用を柱とした企業統治の指針であるコーポレートガバナンス・コードも制定され、それらが車の両輪となることによって、企業価値向上にむけて経営陣による適切なリスク・テイクを後押しするための「攻めのガバナンス」の実現を求める流れができはじめたと言われています。
 
このように日本でもESGの「G」の側面に含まれるとされるROEへの関心がより高まってきています。
 
では、実際、ROEの上昇は株価にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
 
ROEは株主資本利益率と言われ、当期純利益を株主資本で割って算出されます。

ROEを上昇させるには、分子の当期純利益を上げるか、分母の株主資本を減らす方法が考えられます。分子の当期純利益を上げるには、本業や金融などその他事業で利益を上げるか、特別利益等を計上することが挙げられます。一方、分母の株主資本を減らす方法としては、自社株買いや配当の支払いなどが挙げられます。
 

また、ROEはデュポンシステムによると、ROE=「売上高当期純利益率*総資産回転率*財務レバレッジ」とあらわされます。

売上高当期純利益率*総資産回転率はROA(総資産利益率)を示し、資産を活用してどのくらい利益を上げられるのかを見るものであり、一定の株主資本のもと、どのくらい負債を活用しているかを示す財務レバレッジを掛け合わせてROEの値が算出されます。そのため、ROA項目である売上高当期純利益率、総資産回転率と財務レバレッジをそれぞれ引き上げることでROEが上昇することとなります。
 

次にPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などのバリュエーションの視点からROEの理論株価に与える影響を見てみます。
 
PBR=株価/BPS(一株当たりの純資産) であり、

変形すると 理論株価=PBR*BPS・・・①になります。
 

一方、PBR=ROE * PER・・・②であらわされることから、    

PERが一定とすると、ROEが上昇すれば、PBRが上昇することになります。
 
そして、①からBPSが一定とすると、PBRの上昇が理論株価の上昇につながることになります。
 
つまり、ROEの上昇がPBRの上昇につながり、最終的に理論株価の上昇につながるという経路をたどっていることがわかります。
 

例えば、②を考えてみると、

PERが仮に20倍で一定とすると、ROEが5%の時は、PBRは5%*20倍で1倍となります。もし、ROEが10%に上昇したら、PBRは10%*20倍で2倍となります。
 
①を使うと、わかりやすくBPSが200円で一定と仮定すると、ROEが5%の時は、200円*1倍=理論株価は200円となりますが、ROEが10%の時は、その上昇に比例して200円*2倍=理論株価は400円となるわけです。

上記は、ファンダメンタルズ分析に基づくROEを用いた理論株価の推移でしたが、ROEと株価の関係は実際のマーケットではどのようになっているのでしょうか?
 
日系の大手証券会社の分析によると、分析期間としてTOPIX採用銘柄を2005年1月末~2014年12月末までとし、ROEとPBRの関係を見てみると、ROEが8%を超えると、PBRとROEは正の相関関係が見られるとしています。

また、PBRとROEスプレッド(予想ROE-資本コスト)の関係を見てみると、ROEスプレッドが2%を超えると、PBRとROEは正の相関関係が見られるとしています。
 
つまり、ROEおよびそのスプレッドとPBRの関係においてはすべての範囲で正の相関が見られるわけではないですが、ある水準を超えた場合に、ROEが上昇すれば、PBRが連動して上昇するということが実際のマーケットでは見て取れるわけです。つまり、過去のデータ分析ということを前提に置きつつも、実際のマーケットにおいても理論通り、ROEが上昇すればPBRの上昇を通じて、株価を押し上げる効果が期待できるわけです。
 
日本の個人投資家が長期的な資産形成としてESG投資を活用していくためには、当面は、攻めのガバナンスとしてROE向上が見込まれる「G:企業統治」の側面を重視しながら投資し、株価のパフォーマンスを高めていくことが大切だと考えます。そして将来的には、長期的な持続的な利益成長をもらすと予想される「E:環境」や「S:社会」の項目もしっかりと取り入れ、市場でESGの認知度・浸透度が欧米の水準にキャッチアップする形で年金基金など機関投資家中心により多くの資金流入がもたらされることで、PERなどバリュエーション面のプレミアムも享受していくというスタンスを採っていくのが一つの投資スタイルとして望ましいのではないかと考えます。

*上記のコメントは筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社または組織の見解ではございません。また個別銘柄の推奨、商品の投資勧誘を目的としたものではありませんのでご理解賜りますようよろしくお願い申し上げます。

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